さくっ、じゅわ〜!がたまらないから揚げ。作り方がシンプルだからこそ、下味や揚げ方で好みがわかれる奥深い料理でもあります。から揚げ好きのAJINOMOTO PARK編集部員も、衣や下味を変えてみたり、手探りで色々と試していましたが、これ!という仕上がりになかなかならず…。そんなときに、味の素社の食品研究所でも「指折りの肉好き」こと木場隆介さんが、究極のおうちから揚げを追求しているという噂を耳にし、「現時点で人生の最高傑作」というから揚げレシピを教わりにいきました。
木場さんは味の素社の中でも「おいしい食感」を研究する食感制御グループに所属。調理科学などの知識・おいしさ研究と肉料理への深い愛情が融合した「から揚げレシピ」を、実演を交えてお届けします。

インタビューした人
味の素社食品研究所食感制御グループ
木場隆介さん
- 肉の魅力は、一生探求しても「わからない」ことの面白さ
- 「究極のから揚げ」の要は、風味と食感のバランスにあり!
- ポイント1:材料選び
- ポイント2:鶏肉の下処理
- ポイント3:泡立てた卵白でコーティングする
- ポイント4:油の温度は170〜180℃に
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肉の魅力は、一生探求しても「わからない」ことの面白さ

木場さんが仕事をする味の素社の食感制御グループは、一言で表すなら「おいしい食感を生み出すための技術を作る部署」です。
木場さん「『餃子の皮をパリパリにする』『お米をふっくらさせる』『から揚げをジューシーにする』……そういったおいしい食感に必要な素材や技術を、製品へ導入するために研究しています」
グループ内でも木場さんは無類の「肉好き」として知られていて、仕事とプライベートの境目なく、肉をおいしくするための研究をしているそう。 それほど「肉」に入れ込むようになったのは、ある一皿がきっかけだと言います。
木場さん「フレンチレストラン『カンテサンス』で食べた、鹿のフィレ肉のローストです。当時、鹿肉などのジビエ肉は臭みが強く、硬くパサつく食感でおいしいイメージがありませんでした。ですが、コースのメインとして登場した一品は、甘く香ばしい香り、肉の繊維一本一本の食感、じゅわっと広がるうま味など衝撃的なおいしさでした。素材選び、下処理、火入れなど調理法一つとっても『肉って、こんなに可能性があるのか』と、その奥深さに圧倒されました。肉料理には、一生懸けて探究してもわからないようなおもしろさがありますね」

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「究極のから揚げ」の要は、風味と食感のバランスにあり!
“肉愛”を胸に、おいしい食感を研究する木場さん。「できたての衣のクリスピー感を保つ」研究をしているときに見出したのが、「タマリンドシードガム」という素材でした。マメ科の常緑高木であるタマリンドの種子の胚乳から抽出できる多糖類です。
木場さん「タマリンドシードガムは、揚げる前の肉に膜をつくることでき、時間が経ってもクリスピーな衣になるんです。この技術は特許を取得していて、実際に業務用製品でも使われています。もちろん、家庭でそういった素材を使うことは難しいので、身近な食材で近しい作用を得るにはどうしたらよいかを考え、今回のレシピにたどり着きました。他にも、お肉をやわらかくする特許技術、ジューシーにする特許技術など、味の素で発明した技術の経験を盛り込んでいます。」

特許技術の考え方をベースにした、木場さん流の「究極のから揚げ」。サクサク食感でジューシーに仕上げるには、以下5つのポイントが大切です(詳しい材料とレシピは記事の最後にまとめています!)。
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ポイント1:材料には少しこだわる

木場さん「鶏肉は、ぜひ国産の若鶏を選んでください。筋が少なくて柔らかいので、から揚げに向いています。また、にんにくやレモンも国産の方が、香りや味がしっかりと感じられてオススメです。経験上、卵は殻が茶色いものを使うと、卵白の泡立ちと被覆力(※)があるものが多く、粉のつきがよくなりますよ。酒は料理酒でも作れますが、塩分が含まれていない清酒の方が、雑味が少なくて風味が良く、肉の味が引き立つので、試していただきたいです!」
※食材を覆うコーティング力

揚げ物といえばサラダ油を使う方も多いと思いますが、木場さんのおすすめは米油。揚げ色がきれいにつく上、油が酸化しづらく、冷めてもおいしいから揚げになります。

衣は片栗粉と米粉をブレンドします。
木場さん「片栗粉は『カリカリ』食感を、米粉は『サクサク』食感を作るので、2つを混ぜています。片栗粉も米粉もできれば北海道産がオススメ。いろいろ産地を変えて試したのですが、北海道産のものが一番サクサクで香ばしく、カリカリに仕上がったんです」

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ポイント2:鶏肉に味を吸わせる
鶏肉は冷蔵庫から出したてのものではなく、常温に戻してから使います。肉が冷たいまま揚げると、加熱ムラができてしまうのだそう。さらに、常温のほうが粉付きも良くなります。
切る前のポイントは、まな板に広げた鶏肉の両面にフォークで穴を開けること。漬け込み時間を短くしたり、火を通りやすくしたり、肉を柔らかくしてくれたりと、さまざまな役割をしてくれます。

肉を平らにした状態で、均等な大きさに切っていきます。
木場さん「なるべく同じ大きさに切ることも、加熱ムラを防ぐポイントのひとつです。僕は皮や筋も食感のアクセントだと思っているので、今回はついたままにしていますが、気になる方は取っていただいても構いません」

醤油、清酒、みりんを加え、ナツメグと「味の素®」を振ります。
木場さん「鶏肉にはイノシン酸といううま味成分が含まれていて、昆布やトマトなどに含まれるグルタミン酸と合わさるとうま味の相乗効果でとてもおいしくなります。『味の素®』はグルタミン酸なので、僕も普段から揚げを作るときには必ず入れています」

すべての調味料を入れ終わったら、手で混ぜ合わせます。手で混ぜることで肉の温度も均一になり、調味液がしっかり全体に馴染むのだそう。全体に馴染むまで丁寧に混ぜ合わせたら、ラップをして20分置いておきます。

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泡立てた卵白でコーティングする

究極のから揚げを作る上で欠かせないのが、泡立てた卵白。粉づけする前に、卵白でコーティングをします。

木場さん「先ほど肉に膜を作る『タマリンドシードガム』のお話をしましたが、卵白がその代わりをしてくれます。空気を含ませるように、メレンゲの手前くらいまで泡立てるのがポイント。泡立てた卵白をまとわせることで粉づきもよくなりますし、エアリー感が出て食感もサクサクになります」

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ポイント4:油の温度は170〜180℃に

揚げ油の温度は、木場さんいわく「これさえ気をつければ失敗知らず!」というくらいに大事なポイント。
木場さん「油の温度は170〜180℃です。最近は温度が設定できるコンロもありますが、ない場合は菜箸のまわりにぷつぷつと気泡がつくくらいが目安です。温度が上がったり下がったりすると仕上がりにムラが出るので、肉は一個ずつゆっくり入れるのではなく、鍋に入る分をまとめて入れるとよいですよ」

最初は、ぷつぷつと細かかった泡、だんだんと大きな気泡になっていき、肉も上面に浮かんできます。この浮かび上がりと色味がちょうどよい揚げ時間の目安になります。

木場さん「揚げ物調理は避けたい、という方の一因が、油はねだと思います。油はねは水と油の反発で起こるのですが、このレシピでは卵白で鶏肉をコーティングしているので、鶏肉の水分が出ていかず、油がはねる心配が少ないんです」
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ポイント5:余熱で火を通す
このまま揚げたてをがぶっといきたいところですが……最後のポイントは揚げたらバットなどに引き上げて、5分から10分ほど置いておくこと。余熱で中までしっかり火が通ります。

最後にレモンと卵黄を添えて完成です!

編集部でも実食。カリッとした衣からお肉のうま味がじゅわ〜っ! と口の中に広がり、あんなに短い漬け時間でこんなにしっかり味がついているなんて……! と感動。大ぶりのから揚げ一個を食べても、揚げ物によくある「重たさ」を感じにくく、気づけば箸が止まりませんでした。
お家でから揚げを作るとなると、ハードルが高く感じるかもしれませんが、今回のレシピは油はねがほとんどなく、漬け時間も短いので、作ってみたら「あれ?これだけでいいの?」とその手軽さに驚くはずです。
揚げ物に苦手意識がある方も、から揚げをはじめて作る方も、究極の味をお試しください!
材料&調理手順
材料(3〜4人前/14〜16個分)
- 国産若鶏もも肉
- 2枚(200-300g/1枚当たり)
- Aしょうゆ
- 大さじ3
- Aみりん
- 大さじ1
- A酒(清酒)
- 大さじ1
- Aにんにく(国産)
- 1かけ(すりおろす)
- Aうま味調味料「味の素®」
- 10振り(小さじ1/3程度)
- Aナツメグ
- 7振り(小さじ1/4程度)
- 米粉
- 100g
- 片栗粉
- 50g
- ※米粉と片栗粉の分量は2:1
- 卵白
- 2個分(卵黄は最後に添える)
- 米油(なければサラダ油)
- 適量(鶏肉がすべて浸かる量が目安)
- レモン(国産・好みで)
- 適量
- 【下準備】鶏肉は常温に戻す(30分くらい室温に置く)。
- 鶏肉の身と皮面に万遍なくフォークで穴を開け、ひと口大に切る(鶏肉1枚当たり8-10ピース程)。
- 鶏肉をボウルに入れ、Aを加えて手でよくもみ込む。
- ラップをし、20~30分室温に置く。
- 米粉と片栗粉をボウルに混ぜ合わせる(このあたりで油の準備をしておく)。
- 別のボウルに卵白を入れ、白っぽくなるまでよく泡立てる。
- (4)の鶏肉を卵白にくぐらせ、(5)の粉をまぶす。
- 油が170~180℃になったら鶏肉を加え、中火で揚げる。
- 唐揚げが浮き上がって気泡が大きくなったらバットなどに取り上げ、 5~10分休ませる。
- 器に盛り、好みでレモンやディップ用の卵黄を添える。
- 執筆/ひらいめぐみ 撮影/須古 恵 編集/長谷川 賢人